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「提言」京都懇談会での志位和夫委員長の報告(3)

 7日、京都市東山区のホテルで開催された「社会保障と経済・財政の立て直し」懇談会での志位和夫委員長の報告(大要)を紹介します。

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第2段階では国民全体で力に応じて負担――所得税の累進課税の強化

 これが第1段階での財源政策ですが、そのうえで第2段階の「先進水準の社会保障」まですすむ場合には、「提言」では、国民全体で力に応じて負担する、所得税の累進課税の強化という方針を打ち出しております。
 「国民全体で」という言葉を聞きますと、消費税を連想される方もいるかもわかりませんが、私たちは、国民全体で「力に応じて」と書いてあります。ここが大事なところです。将来にわたって「応能負担」の原則を貫く。「応能負担」といいましたら、まずは富裕層と大企業の応分の負担ですが、そのうえで、所得税の累進の強化という方向で税収を見いだしていくというのが私たちの考えです。
 なぜこの方針を出したかといいますと、「先進水準の社会保障」の実現となりますと、やはりそれなりの財源が必要となってきます。一番お金がかかるのは、最低保障年金の確立です。それから医療費の窓口負担ゼロ、介護の利用料もゼロ、ここまでいきますとやっぱりどうしてもお金がかかってまいります。

 大企業の法人税をもっと上げればよいかと、これも検討しましたが、いまの国際的状況の中で日本一国でそれをやりますと、日本が特別に法人税が高くなってしまうという心配もあります。そういう全体のことを考えまして、社会保障の抜本的拡充まですすもうと思ったら、国民全体で支える必要がある。ただその場合も消費税という弱いものいじめの税金は絶対に選択肢にしない。所得税の累進の強化で財源をつくるという選択肢が最も理にかなっている。これが私たちの考えでございます。

 多くの国民のみなさんが、「社会保障は大事だから、やはり国民も一定の負担をしなくてはならないかな」と思っていらっしゃると思います。政府や財界はそこにつけ込んで、消費税増税といってくるのですが、本当に社会保障を将来にかけて良くしていこうと思ったら、たくさんのお金がかかることは、誰が考えても当たり前の話です。私たちは、その場合も消費税ではなくて、税制民主主義にたった所得税の累進強化という道がありますよということをきちんと示すことが、「提言」の全体に説得力を持たせることができると考えたしだいあります。

 この第1段階と第2段階の全体の改革を実行しますと、どれだけの財源が出てくるか。 まず、第1段階での歳入と歳出の改革で出てくるお金が、12兆円から15兆円です。第2段階の所得税の改革で出てくるお金が6兆円程度です。あわせて改革によって出てくるお金が18兆円から21兆円です。

 同時に、私たちの「提言」では、冒頭にのべたように、「国民の所得を増やす民主的経済改革」を同時並行ですすめます。そのことによって、経済が成長の軌道に乗っていきます。そうしますと、いまのべた18兆から21兆円のほかにも、経済成長による自然増収というものが出てきます。この自然増収分というものは、既存の税収からも出てくるんです。既存の所得税とか法人税などからも出てまいります。計算してみますと、さきほどのべたように、年2・4%程度の経済成長がありましたら、ちょうど10年後の2022年ごろまでには既存の税収もいまの2割以上増えてまいります。そこで20兆円程度の自然増収が出てまいります。

 ですから改革分と自然増収分とあわせて40兆円以上の新たな財源が出てくるというのが私たちの見通しであります。40兆円といいましたら大きな額ですが、そのくらいのことは、政治の姿勢を変えればできるのです。この40兆円のだいたい半分を社会保障の充実を中心に、さらに教育研究、中小企業、農林水産業などの暮らしにあてる。そして半分を財政危機打開のためにあてる。こういう大まかなプランで進んでいこうというのが、私たちの「提言」」の考え方であるということを、ご報告させていただきます。


民主的な国際経済秩序をつくる立場で

 第四に、この「提言」が国際的視野に立ったものだということものべておきたいと思います。すなわち、民主的な国際経済秩序をつくるという立場に立っております。
 たとえば「提言」では、法人税の税率について「法人税の引き下げ競争を見直す国際的働きかけをすすめ、下げすぎた法人税率の適切な引き上げをはかる」と明記しています。つまり国際協調で法人税率を上げていこうということです。この間、世界の先進国といわれる主要各国では、「多国籍企業を呼び込む」という名目で、法人税の引き下げ競争を続けてきました。その結果何が起こったか。日本だけではありません。各国政府の税収が枯渇してしまっています。そして借金も世界各国で増えてしまっています。それが政府の機能を損なってしまっている。「多国籍企業栄えて国滅ぶ」という状況は、世界の先進主要国のあっちこっちで起こっているのです。そういうもとで、OECDなども「これは有害な税の競争だ。やめるべきだ」という警告を、1990年代から出しております。最近は、G20でも法人税の引き下げ競争はやめようではないかという議論が起こっています。日本が主導的に国際的に働きかけて、みんなで一緒に法人税を引き上げようじゃないかというのが「提言」の提案です。国際協調で法人税を上げよう――これは無理のない、そして大義のある方向ではないでしょうか。

 また、「提言」が「為替投機課税」を新設すると提起していることも注目をいただきたいと思います。
 世界で投機マネーということが問題になっています。投機マネーはいったいいくらあるのか。「投機マネー」という統計があるわけではありません。どこまでが投機でどこから先が投機ではないという事は、なかなか判定しづらいことですから。ただこういう数字を一つ紹介したいんです。アメリカの調査会社でマッキンゼー・アンド・カンパニーというのがあります。そこが最近、調査結果を発表しています。世界の金融経済がどう推移しているかの調査結果です。これを見ますと、世界の金融経済は、どんどん膨れあがって、リーマンショックで一時減っていますけど、また膨れあがって、直近の2010年にはリーマンショックの前を超える史上最高の水準まで膨れあがっています。総額212兆ドルです。金融経済というのは、世界の主要79カ国の株式と債券などの残高の合計をとっているわけですが、212兆ドルにも達する。まったくピンとこない数字ですが、世界の名目GDPの3・3倍ものお金があふれていることになります。もちろん一定のお金というのは、実体経済を動かすためにも必要で、これがすべて投機マネーとは言いませんが、専門家の見立てでは220兆ドルのうち100兆ドルぐらいは、実体経済を動かすためには必要のない、余った余分なお金だということです。

 これがまさに投機マネーとして動くわけです。お金っていうのは困ったもので、じっとしていられないんです。増えていかなきゃならない。だから儲け先を探して、この100兆ドルの投機マネーがあっちこっち動くわけです。為替投機に動く。円高の一つの原因になっています。原油市場に入っていく。また原油も上がってますでしょう。穀物市場にも入っていく。世界中の経済をかく乱する投機マネー。これを規制しようではないかというのは、世界的な動きになっていまして、ブラジルでは金融取引税をすでに導入しました。EUでも投機に課税するという方向に動きつつあります。日本でも「為替取引課税」を実施しようではないかということを、今度の「提言」には盛り込みましたが、これも国際協調でやっていこうという重要な中身になっております。

 それからもう一つ提言で注目していただきたいのは、二つ目の柱の「民主的経済改革」のなかで、人間らしく働けるルールをつくる。あるいは中小企業と大企業との公正・公平な取引のルールをつくるなどの提起をしております。これは、これも国際的意味を持つと思います。

 ILOという組織があります。「ディーセント・ワーク」=人間らしい労働のルールづくりを各国に呼びかけています。ILOの最近の報告書を読みましたら、日本が名指しで批判されております。何と言って批判されているかと言いますと「日本では賃金下落が続いている。その結果需要が大きく落ち込んでいる。それが物価下落のスパイラルを作っている」。つまりデフレスパイラルの原因は賃金の下落だということです。大企業の労働者の賃金を引き上げる。中小企業との関係でも公正な取引をやって、中小企業の商売がちゃんと成り立つようにする。中小企業で働く人の賃金も上がるようにする。これをちゃんとやらないとだめだということを、ILOからも言われているのが日本なんです。「提言」で提案しているような、人間らしい労働、人間らしい賃金、中小企業の経営の安定と発展、これらは国際的要請でもあるということを強く訴えたいと思います。

 「提言」では、TPPの問題についても言及しております。この間、TPPに反対する運動がずっと広がりまして、私も、農協のみなさん、漁協のみなさん、医師会のみなさん、自治体関係のみなさんなど、これまでにない広範な方々と共同の運動をやっておりますが、この共同はもっともっと発展させていきたい。これは日本の農業を壊すだけではありません。日本の経済主権を米国にまるごと売り渡す。国の形を変えてしまう亡国の政治です。それぞれの国の経済主権を尊重し、食料主権を尊重・確立していくというのは、あたりまえの世界の流れになりつつあります。これも、世界の未来ある方向に合流していこうという意味で、たいへん大事な意味を持っていると思っています。

 一握りの多国籍企業だけ栄えて、諸国民の暮らしが荒れ果てるという事になってはいけない。いま世界に求められているのは、一握りの多国籍企業には社会的規制をくわえる。そしてアメリカ一人勝ちのような経済覇権主義も押さえていく。そしてすべての国の経済主権を尊重し、すべての国の国民生活が向上するような、民主的な国際経済秩序が必要ではないでしょうか。この「提言」は、そういう国際像も念頭において、作成したということも、報告させていただきたいと思います。


政治の姿勢を変えれば消費税に頼らない道がある

 私は、先日あるBSテレビに出演しまして、「提言」について話しましたところ、司会者が、「仕組みを根本から変えようというものですね」「ほかの党とは違いますね」というので、「その通りです。仕組みを変えたら、まったく違う道が開かれるのです」ということをそこでもお話しいたしました。

 先日、国会内で経済懇談会をやりましたら、経済の専門家の方がずいぶん見えましたが、「立場が違う方から見ても、これは無理の無い提言だ」という評価もいただいたところで、大変うれしく思っております。
 たしかに、これを実行しようと思ったら、政治の姿勢を根本から変える必要がある。しかし根本から政治の姿勢を変えれば、実行可能な別の選択肢がここにあるということが重要なことではないでしょうか。消費税に頼らなくても、社会保障を良くして、財政危機を打開する道がちゃんとある。そこに大いに確信を持って、消費税大増税ストップの運動をおおいに広げようではないかということを最後に申しあげまして、報告とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました。

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