小児科医O vol.4
「食堂カタツムリ」、「つるかめ助産院」、「ファミリーツリー」、
「喋々喃々」。これらは小川糸さんの代表作で、おそらく出版されて
いる全作品かもしれない。
ひょんなきっかけで、
テレビで小川さんの作品(かなり
原作からは脚色されていたが)
を見る機会があって、
はまってしまって一気に読んだ。
この作者の作品に通底するのは、母や父からの愛着に恵まれなかった子が、さらに恋人や夫からも見放された、いわばどん底に突き落とされた境遇から立ち直っていくというもので、文学のテーマとしてはそれほど珍しいものではないのかもしれない。
しかしあらためて、人が自分の人生を再出発させていく道筋では、
どん底に落ちたものを愛情をもって接する人間の存在が大きな役割を
果たすことや、打ち込める仕事を通じて人あるいは社会との接点を持
ち続けることが大切なのだ、ということをわからせてくれる。
終結は親との和解であり、実は、親はずっと子どもに愛情を注ぎ続け
ていたのだということがわかる。小川さんはこの主題をいろいろな状況
設定と人物を配して、これでもかと語りかける。
信州安曇野があり、竹富島があり、東京上野界隈があり、お産を
迎えるシングルマザーがあり、食材にこだわりとおす食堂の料理人
があり、不倫という一言では言い尽くせない古着物屋の女主人がいる。
そのいずれもが新鮮である。
また小川さんの文章は平易ですごく読みやすい。古くからの日本のこと
ばの響きを大切にした言葉があふれている。囀り、牛蒡、粽などなど。
この漢字、皆さん読めますか?
毎年ノーベル文学賞に村上春樹さんの名前が挙がる。
私にはその意味が全く分からない。
村上さんの文学が、小川さんの文学がつむぎだしているような日本の
文化や言葉を大切にしながら、それでいてユニバーサルな問題を扱って
いるようなものには思えない。
どなたか村上春樹さんの作品の読み方を教えてほしい、と思う。
そうはいっても皮肉なことにノーベル経済学賞や平和賞が、本当に
人類の進歩に貢献した人を選出しているのかどうか、大いに疑問を感
じている人も多いことだろう。
せめて医学生理学と文学分野だけは、私たちの生き方の道しるべ
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