リーマ・ボウイーという女性をご存知でしょうか?
2011年のノーベル平和賞を受賞したリベリア人女性で、最近「祈りよ力となれ」という自伝を出版された。この自伝を通して私は初めてリベリアで起こったことを知った。
1989年以降打ち続く民族紛争、暴力の嵐、その中で常に被害をこうむるのは女性であった。子どもや両親を殺され、また子どもたちは誘拐されて武器を持たされ、虐殺とレイプの繰り返し・・・。自らも望まぬ結婚と暴力的なセックスの餌食となる。いつまで女性は我慢しなければならないのか、これがリーマの原点だった。
最初、熱心なクリスチャンであったリーマはトラウマヒーリングに傾倒して、自分の苦しかった経験を語ることで自らをゆるし、相手をゆるし、心の平穏を回復することをめざす。しかし周りでは女性への暴力は絶えることなく続く。何か違うのではないか? 同じ境遇の女性を誘い、彼女は平和を目指す運動に立ち上がる。
「平和がほしい、戦争はいらない」この一点で多くの女性が団結し、デモを行い、平和を求める女性だけの組織を作り、西アフリカ一帯にこの組織を広げ、政府や反政府のリーダーと交渉を行い、ついに独裁政権を打倒するに至る。
文字通り、何も持たない女性たちの体を張った闘争の物語だ。
リーマのバックボーンにはキリスト教がある。それがトラウマヒーリングという「個」の安楽に閉じずに、政治を変え平和を創り出す運動に駆り立てたものは何か?人並みでないエネルギーと前向きの姿勢、学ぶ意欲、適切なアドバイスをくれた先輩や仲間の存在などが推測されるが、もう一つ、宗教に門外漢の私ではあるが、真の宗教には個人の安楽への到達に加えて、社会の問題を視野に入れること、直面することという要素が本来備わっているのではないかと思う。
ひるがえって、日本では女性が尊厳に満ちた生を営んでいますよ、と自信をもってリーマに応えられるだろうか?
基地問題一つとっても大きな課題だ。リベリアだから起こった運動、リベリアだからできた運動と言い切るわけにはいかないのではないだろうか。私たちがリーマの行動に学ぶことは少なくなさそうである。私のまわりには女性と子どもたちの幸せを願って活動する多くの頼もしい女性たちがいる。さらにその輪が広がっていかなければならないように思う。
彼女たちの活動を紹介した「Pray the Devil Back to Hell」(悪魔よ地獄に帰れ)というドキュメンタリ-が2008年に完成した。リベリアはもちろんアメリカをはじめ世界各地で上演されているが、残念ながら日本では未公開である。鑑賞の機会を作っていただけないものかと切望する次第である。
小児科ドクターO
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