1月5日、京都南座での前進座赤ひげ公演を観た。山本周五郎の「赤ひげ診療譚」はこれまで何度も読んでいて、ストーリーはわかったうえでの観劇にもかかわらず、大いに感動した。
多くの人が述べて云うように、物語は医療におけるヒューマニズムをバックボーンとしている。加えて江戸時代という時代設定にもかかわらず、現代に通じる医療の政治性=貧困と無知が病気をうみ出し、貧困のゆえに医療から遠ざけられている人々が多数いて、それに対して為政者は自らは何ら手を打とうとしない、これらのメッセージが赤ひげこと新出去定の口から、また長屋に暮らす人々の生きざまを通じて発せられるとき、思わず心の中で「その通り」と叫んでしまう。
文学は文字を通して、時間をかけじっくりと感動を誘うが、演劇は役者の動きとセリフを通して時に静かに、時に圧倒的な迫力で迫ってくる。
お恥ずかしい話ながら、私は前進座の劇を今回初めて見せていただいた。
前進座の歴史を振り返ると、治安維持法が制定され、小林多喜二が虐殺され、日本が戦争に向かって大きく舵を取ろうとするその時代に、従来の歌舞伎を超えて新しい民衆の演劇への要求にこたえることを理想として誕生したという。
そして今に至っても歌舞伎の批判的継承と時代へのメッセージ性の両者を追求している演劇団体であることも知った。大げさながら、私にとっては大きな収穫だった。
加藤周一さんのことを思い出した。すでに鬼籍に入られたが、時代に対する批判的視点をもった評論家であり、文学者であり、医師でもあった。
多くの時代論を書かれているが、加藤さんのことを知るには「羊の歌」がいい。この本を読んだ時に加藤さんの演劇に対する造詣の深さに驚いた印象がある。
記憶は定かではないが、加藤さんは青春時代に歌舞伎や築地小劇場で上演される新劇を数多く観られており、その後ヨーローッパ在住の折にはギリシャ劇はじめ本場の古典演劇を観に足しげく通っておられた。
加藤さんといえば「九条の会」の代表のお一人であったことはあまりに有名だが、私たちの活動の中心に、加藤さんのような、本当の意味で文化に触れ、分化を大切にした方がおられたことに、あらためて感動する。
似非愛国者が跋扈する今日、本当に日本と世界の古典を大切にされた加藤さんの存在は私を力づけてくれる。 小児科医 O
・・・前進座 初春特別公演 ご案内・・・ http://www.zenshinza.com/stage_guide2/2013minamiza/story.html
2013年1月17日(木)まで 京都四條 南座にて
※「雪祭五人三番叟」
早春の雪の中で乱舞する三番叟。躍動感あふれる華やかな舞台
※「赤ひげ」
※<出演>嵐圭史、高橋佑一郎、西川かずこ、今村文美ほか前進座総出演
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